●豊かさを模索した時代
かつて、男の趣味の小庭づくりに「盆栽」が一斉を風靡した。少し前にはあの空前の「ガーデニングブーム」が女性の心を魅了した。現在はといえば、第3の市民の庭づくり「コミュニティガーデン」が注目されている。その背景にあるものは何か。
今から二十数年前になるだろうか。“豊かさ”というものを手探りに模索していた時代に、ある先端を走る生活情報産業系企業が『モノからコトへの発想』という概念を打ち出した。少し早すぎた帰来はあるが、当時から既に女性の時代、文化の時代、地方の時代、生活者の時代が来ると叫んでいた。あの頃からすれば、今、まさにそれが現実のものとなっているようである。
●成熟し始めた市民社会の台頭
そのような時代が訪れた大きな要因の一つに、あの驚異のバブル経済の崩壊がある。それは我々の豊かさに対する指標を大きく変えた出来事であるともいえる。永年政治も経済もぬるま湯状態に浸り、異常な景気におどけきっていたほとんど全ての日本国民が、ハッと目をさまし、現実と向き合って生きることに気づかされた瞬間でもある。
この二十数年間で市民も行政も企業も豊かさに対する価値観を大きく変えてきた。つまり物の豊かさから心の豊かさへ、そして消費する文化から生産する文化へと移行しつつある現代社会において、本当の豊かさとは何かを改めて問いただされる時代になってきたのではないだろうか。言い換えると、それは我が国における「成熟し始めてきた市民社会の台頭」を意味するものである。
●不況を楽しむ逆転発想
その点から見るとコミュニティガーデンは、取り分け市民が主体になれ、今の時代にあった豊かさを生み出せる、唯一都市の中の緑の共用空間であると言える。そこには様々なポテンシャルが潜在し、多様なコミュニケーションを生み出す機会をもつ。
こう言うと語弊があるが、この際不況を楽しんでみよう。発想を逆転することで、思いも浮かばなかったことが見えてくる。もちろんそこには市民の視点、生活者の声を忘れてはならない。なにも背伸びをすることはなく、息んで先端を走る必要もない。誰もが暮らしの中で、当たり前につくれそうな豊かさが見える、そんな「時代の半歩先」を行くことで十分である。
人々は皆いつでも緑を求めている。我々、緑の仕事に携わる人間の出番は益々多くなるはずだ。今後も、『打って出る造園界』、そして『元気な造園人』に期待したい。